前橋地方裁判所 昭和47年(モ)118号 決定
主文
申立人らの本件申立をいずれも却下する。
理由
一、申立人らの申立の趣旨および理由は別紙のとおりである。
二、ところで訴訟上の救助は、「訴訟費用ヲ支払フ資力ナキ者」に対してその訴えが「勝訴ノ見込ナキニ非サルトキ」にこれを付与すべきものとされている(民事訴訟法一一八条)が、右にいう「訴訟費用」とは文理上からも、また同法上の規定の位置からも民事訴訟費用等に関する法律所定の費用(これを法定費用という)と解するの外ない。
そしてここに「訴訟費用ヲ支払フ資力」とは、法定費用を負担しうる経済的能力をいうものと解すべきところ、この経済的能力は申立人の所得と生計費財産と負債の全般を綜合して判断すべきである。
右にいう所得には大別して事業所得(農業所得を含む)と給与所得があり、財産としては、不動産、動産、有価証券、預貯金等が考えられる。また、負債としては、事業上又は生計上の債務の外将来本件訴訟により申立人が支出すべき前記「訴訟費用」以外の訴訟のための費用―弁護士費用その他―を含むものと解される(これを法定外費用という)。なお、本件におけるように申立人が申立人と生計を同一にする一家の世帯主である場合には、申立人と生計を同一にする家族の経済的能力も現に申立人の生計に貢献ないし負担となっている範囲において、またその家族と申立人との間に親族法上扶養義務関係が存在する範囲において、申立人の経済的能力を増加ないし減少させるものとして考慮すべきである。けだし、例えば、家族が収入を得てそのいくばくかを供出しておれば右供出をうけている限りにおいて申立人の生計費は減少するし、家族が疾病その他により申立人の家計の負担となっている時にはその限りにおいて申立人の生計費は増大するからである。ことに本件申立人らの居住する安中市野殿岩井等の各地域においては兼業農家が可成りの数にのぼることは公知の事実であり(たとえば一九七〇年世界農林業センサス群馬県統計書一四二頁就業状態別世帯実数安中市関係の数値を見れば一六才以上の農家世帯員(男女)一五、三〇六のうち農業以外の仕事にも従事したもの六、三一三(うち男は四五〇九)で約四一%であり同じく自家農業だけに従事した者七、四八三(うち女五〇五八)で四九%である。また、昭和四五年度群馬県農家経済調査結果概要(群馬県企画部統計課・統計資料四六―一三)八頁によれば―県設定の農業地帯区分により一五〇戸の農家を抽出調査結果―収入から支出を差引いた農家所得は一、三二四、一四六円となり……農業所得は……前年五三・一%を下廻り五一・七%となり農外所得は四六・九%が四八・三%に上昇し農外所得の占める割合は漸増の傾向にある)、またその保有田畑の面積と家族構成の上からも申立人の外に生計を同一にする家族が他に所得を得ている者が多いことが容易に窮知できるのであって、本件の場合は通常に比して一層右家族の所得の実情を把握することが申立人の経済的能力の判断に際して必要である。
そして以上のようにして算出された所得と生計費、財産と負債を比較衡量のうえ訴訟費用を支払うことによって申立人およびそれと生計を同一にする家族の生活の維持が困難になると認められる場合に前記救助は付与すべきことになるのである。
申立人らは、公害事件の特殊性を強調して独自の解釈論を展開するが、一般の不法行為事件たると、契約関係事件たると、はた又、公害事件たるとを問はず、民事訴訟法一一八条の解釈を二・三にすべき理由はない。
三、以上のような観点から当裁判所は申立人ら全員に対し書面による審尋をしたほか、さらに二度にわたって申立人らの資力についての疎明資料の補正を命じた。以上の審尋と補正命令はすべて前記のような申立人の経済的能力を判断する資料を得るため、必要な事項を箇条的に列挙したものであって、一見申立人に複雑かつ詳細な計数上の証明を求めるかの如くであるけれども決してそうではなく、ただ生計をいとなむにあたり通常人ならば何人も即座に常識的になし得る程度の収支決算の概略の説明を要求したものにすぎず、申立人らにおいて要求された質問事項に対し答えるであろう内容は、それが世間一般の常識に適合する限り充分疎明の効力を有し得べきものである。しかるに、申立人らは右質問の箇条については、全く回答せず、わずかに法定外費用に関する資料(法定外費用が申立人の負債の一項目として考慮されるべきことは前記のとおりであるが、申立人らの提出した資料によっても本件において具体的に予想される法定外費用の額は疎明不充分である。)、申立人個人の所得証明書(これは本件訴訟の原告となった各人の農業所得を中心とする所得税法上の所得申告額を証明したものと解されるがこれだけでは原告の各世帯内における経済的能力・家族の経済的能力との関係が全く不明である。しかも所得税法上の所得申告額は―特に農業所得については―一定の推計により算出されることが多く実際の所得を下廻る場合が多い)所有不動産報告書(これに記載されている評価も実際の時価を下廻ることは公知の事実である)等を提出したのみである。
そして、申立人らの預貯金・機械・有価証券などの財産および申立人と生計を同一にする家族の収入に関する資料については、提出拒絶の意思を表示した。
四、申立人らの右拒絶の理由等に照らすと申立人らは右の諸点についてさらに補正を命じてもこれに応ずる見込は到底ないものと考えられ従って、当裁判所は現在提出されている疎明資料にもとずいて本件申立について判断せざるを得ないところ、前述したところから明らかなようにこれをもってしては到底申立人らの経済的能力を判断することはできない(また本件における「法定費用」は訴訟印紙代が最高五二、九〇〇円。最低一七、九〇〇円である。その他の主要なものとして証人・鑑定の費用が考えられるが、これ等は百数名の原告で分担するのであるから、その一名当りの額は著しく小額となる。
しかし、それについても具体的額の疎明はない。勿論、訴訟の進行にそれが多額に上ることが疎明されればその段階においてその費用につき部分的に救助を与えることがあり得よう。しかし、現状においては、訴状自体より明白な不動産所有の事実と照らし合せて考えただけでも前記の申立人ら提出の資料だけでは原告らに前記「法定費用」を支払うだけの能力がないとは到底判断できない。)
従って申立人らが民事訴訟法一一八条の「訴訟費用ヲ支払フ資力ナキ者」に該当する点についての疎明はないものと断ぜざるを得ない。
五、そうするとその余の点を判断するまでもなく本件申立はいずれも失当であるから主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 植村秀三 裁判官 柳沢千昭 出口治男)